私を溺愛してください!
《葉瑠side》

…あの日以降、宗吾に連絡はしていない。

していないんじゃない、出来るわけがない。

御曹司と、平社員の恋なんて、あるわけがない。

社内でもほとんど会うこともない。

第一、私がここで働いているなんて、宗吾は知らないのだから、会ったとしても、気づくこともないだろう。

1000人近くいる一人なんて、宗吾は見つけない。

数日後。

部長に頼まれた茶封筒を、近くの取引先へ持っていこうと、エレベーターを降り、ロビーを歩き始めた時だった。

こちらに向かって歩いてくるのは、他の誰でもない。

高嶺コーポレーションの専務取締役、高嶺宗吾、その人だ。

社員たちが、頭を下げる習慣があって良かったと、この時ばかりは感謝した。

深々と頭を下げ、宗吾が通りすぎるのをドキドキしながら待った。

そして、通りすぎてすぐ、私はさっと頭をあげると、逃げるように、社外に出ていく。

…宗吾の香水の残り香が、私の胸をきゅうっとさせた。

忘れなきゃ。

彼はまだ、二十代だ。

こんなおばさん、相手にするわけない。

私は胸元を軽く握りしめ、取引先へいそいだ。
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