私、それでもあなたが好きなんです!~悩みの種は好きな人~
今のご時世、女性から積極的に唇を奪いに行くのもアリだと思う。

じっと私を見つめる彼の視線に、私の視線を絡ませる。自然の流れに身を任せ、私はそっと目を閉じた。じわじわと寄せた私の唇に、柔らかで温かな石堂さんのそれが重なる予感に鼓動が早まっていった。石堂さんの小さな息が私の唇に触れ、その唇まで数センチという時だった。

「お前、何してんだ?」

「……へ?」

冷めた声がしてパッと目を開けると、呆れたような、怒っているような表情で、石堂さんが目を細めて、私を見ている。

わ、わわわ私――!?

今、何しようとした――!?

ひとり慌てる私に、まったく動じていないような様子で、石堂さんは無言だった。会話のない空気が更に恥ずかしさを煽る。

私は、石堂さんの視線に耐えかねてくるっと背を向け、真っ赤になって熱を持った頬に両手をあてがった。

キスがしたい衝動に駆られてすっかり我を失っていた。

な、なんて言おう、「今の、忘れてください」かな、「冗談ですよ」とか――?

でも、石堂さんが好きな気持ちは嘘じゃないし――。

「おい、こっち向けよ」

取り繕う言葉を、頭をフル回転させて考えていると、不意に石堂さんが私の背中に声をかけた。
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