私、それでもあなたが好きなんです!~悩みの種は好きな人~
昼間のピークを過ぎ、少し落ち着いてきた頃だった。すらっと背が高く、三十代くらいのスーツをぱりっと着こなした、インテリ風ビジネスマンがひとり店に入ってきた。

「禁煙席で空いている席ありますか?」

「あ、はい。ご案内いたします」

入ってくるなりそう私に声をかけられて、私は慌てて席を案内した。

「ご注文がお決まりでしたら――」

「ブレンド、ホットで」

その男性は無愛想にそう言うと、少しの時間も惜しむように、鞄の中から書類を取り出して仕事を始めた。シルバーフレームの眼鏡がどことなく神経質そうな印象だ。

「はい。かしこまりました。ホットのブレンドですね」

注文を確認してカウンターに入る。それと同時に休憩室から石堂さんが戻って来た。

「新規のお客様一名、窓際にご案内しました。ブレンドの注文いただきました」

私がそう告げると、石堂さんは窓際に座るその男性に目をやった。すると、一瞬驚いたような顔をして動きが止まる。

「……なんで」

ぼそっとそう呟くと、なぜが徐々に石堂さんの目つきが鋭いものに変わって眉間に皺が寄り始めた。

「あ、あの……どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。俺がブレンド作って持って行くから、お前はここにいろ」

「え? はい。わかりました」

確かに感じた不穏な空気は気のせいではなかった。その証拠に石堂さんの表情はなんとなく穏やかではない。それに、常連の女性客に対してたまにホールに出たりすることがあっても、石堂さんが自ら注文をサーブするようなことは滅多にない。
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