私、それでもあなたが好きなんです！～悩みの種は好きな人～
「あなたの就業時間に合わせてもう一度店にお伺いしたのですが、たった今店を出たばかりだと言われて……慌てて追いかけたら、偶然会うことができました」

水谷さんは少し笑って言うと、内ポケットから名刺入れを取り出し、すっと一枚私に差し出した。

“スフラグループ株式会社　人材開発部主任　水谷公平”

人材開発部――？

あまりピンとこない顔をしていた私を見て、補足するように水谷さんが言った。

「人材開発部というのは、経営戦略に則った視点から事業活動を支え、パフォーマンスを提供できる人材を育てるという、いわば従業員を育てる仕組みを作る部署です」

「はぁ……」

な、なんか小難しいな――。

「実は、あなたにいくつかお尋ねしたいことがあって……」

水谷さんは口元に運んでいたコーヒーカップを一旦、ソーサーに置き、改めて言った。

「バリスタとしてアルバイトを始めた従業員に、本部が新たに制作した人材教育のマニュアルに則って勤務をしてもらい、どのような過程で成長していくか、被験者であるあなたに、勤務の状況を確認しておきたかったのです」

「……へ？」

「あぁ、被験者なんて言い方は失礼でしたね、すみません」

水谷さんがとりとめもなく言葉を並べ、眼鏡のブリッジをクイッと人差し指で押し上げる。

人材マニュアル？　ちょっと待って……話が見えない――。

耳に流れ込んでくる消化不良の情報に頭がついていけず、目が点になる。
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