私、それでもあなたが好きなんです!~悩みの種は好きな人~
「彼が店にいたのは、最近、売上が伸び悩んでいた本店で、店舗運営の視察と体制の立て直しを兼ねて、人材開発部で制作したマニュアルの検証をするためだったんです」

な、なに、それ……石堂さんが……副社長――!?

だって、石堂さんは有名なバリスタで――。

接客経験のない私に、親身になって色々アドバイスしてくれた。石堂さんも、私と同じコーヒーが好きだから、バリスタになって店で働いているものだと思っていた。それなのに、働いていた本当の理由を聞いて、私はショックを隠しきれなかった。

「ですが……採用になっても長続きしない従業員が多くて……参考になる人がなかなか現れず困りました。おかげで制作したマニュアルの検証に時間がかかってしまいましたが……あなたのおかげで良い報告ができそうです」

次々と与えられる情報に、私はただ呆然とするしかなかった。

ラウンジのBGMが聞こえないくらい、頭の中が真っ白になった。水谷さんの言ったことをひとつひとつ理解したくても思考回路が麻痺してしまっている。

「石堂も役職に就いていながらマイペースな性格でして……いつも仕事は早いほうなのですが、最終報告書が滞っておりました。差し出がましいとわかっていましたが、私は主任であり、彼の秘書も勤めておりますので、書類作成のための資料収集のため、私が直接あなたと接触をした次第です」

「そう、ですか……」

なにもかも信じられなかった。スフラグループの人材開発のため、自分が利用されていたような気になって、まるで冷水を浴びせられた気分になった。
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