私、それでもあなたが好きなんです!~悩みの種は好きな人~
石堂さんが今までバリスタになるために私に言ってくれたこと、してくれたことは――。

あれは、石堂さんの本心じゃなくて……すべて、会社のため――。

石堂さんは、初めから私のことなんて見てくれていなかった。自分の会社のためだったと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような寂寥感に襲われる。

「私の勤務状況は良好です。石堂さんにバリスタになるために、一から色々教えていただきました。これからも……頑張ります」

それだけ言うのが精一杯だった。沈んだ声音にも関わらず、水谷さんはそう聞いて満足そうに頷いた。それから、石堂さんに指導を受けてどう感じたか、それに対してどう改善したのか、私は心ここにあらずの身でいくつかの質問に答えていったが、自分の口からどんな言葉が出たのかすら、記憶に残すことはできなかった。

「あの、石堂さんは……いずれ本社に戻ってしまうのでしょうか?」

すっかり冷め切ったコーヒーを見つめながら、ぽつりと私はそう尋ねた。

「そうですね、本店は元々、石堂の叔父である石堂雅人氏に任せてあります。本店で勤務している間は退いてもらってるみたいですが……報告書が完成すれば、石堂も引き上げということになっています」

そう言いながら、水谷さんは涼しげな顔でコーヒーを啜る。

「彼も、よほど現場の仕事が気に入ったのでしょうね……ですが、そろそろ本社に戻ってきて頂かないと、こちらも都合というものがありまして」

「そう、ですか……」

力なくそう言うと、水谷さんが口を開いた。
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