私、それでもあなたが好きなんです！～悩みの種は好きな人～

「あぁ、ご在宅でしたか」

そこに立っていたのは、四十代くらいのスーツを着た男性で、身なりもきちんとして恭しく私に頭を下げた。

「あの、どちら様ですか？」

こんな紳士的な人が、いったいなんの用だろう？そう怪訝に思っていると、男性が言った。

「突然の訪問、失礼いたします。奥様が里美様とどうしてもお話がしたいと――」

「里美！」

私の前に立っている男性を軽く押しのけ、姿を現したまさかの人物に、私は目を見張った。

高級そうなボアのついたロングコートを身にまとい、ふわっとウェーブがかった栗色の長い髪、そして優しく細める目に笑みを浮かべて、ぷっくりとした真っ赤な唇は緩やかに弧を描いていた。私と背丈は同じくらいで、どことなく懐かしい雰囲気を感じた。

「里美……」

私の名前を呼ぶその声には覚えがあった。脳裏に遠い日の記憶が蘇る。
「お、かあ……さん……？」

間違いない。長年顔を合わせていなかったけれど、自分の親を見間違うことはない。たどたどしく、私の口から「お母さん」とこぼれると、彼女は白い歯を覗かせてにこりと微笑んだ。