私、それでもあなたが好きなんです!~悩みの種は好きな人~
昔、母にそう言われた古傷が今でも胸に残って燻っている。あの時、私がいないと思って母が影で姉にぼやいていた言葉だ。身体中にどす黒いモヤモヤとしたものが沸き起こって、思わず顔を曇らせてしまう。

「お母さん、お姉ちゃんは? 元気なの?」

母に会うことよりも、どちらかというと姉に会いたかった。おそらく、母は姉と一緒にいるはずだ。今どうしているのか気になる。

「智美は元気よ。お母さんね、お父さんと別れてしばらくして、再婚したの」

「知ってる、叔母さんから聞いた」

母がどんな人と再婚したのか知らないけれど、姉ともども裕福な暮らしをして幸せな生活をしていると、大学一年の時に聞かされた。

「一ノ宮コーポレーションって知ってるわよね?」

「いち、のみや……コーポレーション……」

母に言われてもピンとこなかったけれど、頭の中で何度もその会社名を巡らせているうちに、一ノ宮コーポレーションが、今一部上場の大手不動産会社の名前だと思い出した。

「お母さん、そこの社長さんと再婚したのよ、ほんと再婚する前の生活とは大違い、お母さんも智美も幸せよ」

なに食わぬ顔の微笑みから、母は本当に今幸せなのだろうとわかる。

私がどんな人生を送ってきたか知らないくせに――!

母も姉も幸せになったのなら私も嬉しい。けれど、内心は穏やかではなかった。こわばった私の表情を見て、悲しげに母が少し声を震わせて言った。
< 197 / 294 >

この作品をシェア

pagetop