私、それでもあなたが好きなんです!~悩みの種は好きな人~
「ぷっ、面白い顔」

意地悪そうにふっと笑ったその表情に、なぜか心臓がドキドキ鳴り出す。

「う~、人の顔で遊ばないでください」

「お前、接客経験は?」

――接客経験。

今まで色々アルバイトをしてきたが、接客業だけは経験がなかった。面接の時には特に尋ねられなかったし、気にもしていなかったけれど……。

「その、接客業は……経験ないんです」

「ふぅん……あっそ」

恐る恐るそう応えると、石堂さんはそっけなく言った。

「なら、豆をいじる前に接客に慣れとけ」

「わかりました」

「あとこれ、うちの従業員マニュアル、読んどきな」

雇ったはいいが、いまさら接客経験がないなんて、どんな呆れた言葉を浴びせられるだろう、とびくびくしてしまったが、石堂さんは特に気に留めることなくなにも言わなかった。

「わかりました。私、頑張ります」

仕事はじめ一日目。失敗はあるかもしれないけれど、ひょんなことからつかみかけた夢に期待が膨らむと、石堂さんから受け取ったマニュアルを胸に、思わず笑みがこぼれた。
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