私、それでもあなたが好きなんです!~悩みの種は好きな人~
『もしもし? 里美?』

「沙耶? ごめん、電話出れなくて……」

『大丈夫、大丈夫。もしかして、終活忙しかった?』

相変わらず元気な沙耶の声に心なしかほっとする。

「あのね、私、やっと仕事決まったんだ」

『え? そうだったんだ! よかったね! おめでとう! それで? 今度はどんな仕事なの?』

「ふふ、どこだと思う? 実はね、この間沙耶に連れて行ってもらったカフェだよ」

『えぇ!? スフラ!? 嘘? 里美すごいじゃん』

自分が今こうして仕事ができているのは、ある意味沙耶のおかげだ。沙耶は私の報告を聞いて自分のことのように喜んでくれた。

『いいなぁ~、もうあのイケメン店長と会った? あんな人と一緒に仕事できるなんて羨ましいよぅ~。雑誌とかテレビとかに出てるの知ってる? モチベもあがるね』

イケメン……ね、確かにイケメンだけど――。

『じゃあ、里美が仕事してる時に店に行くね、最初で最後になるかもだけど……』

「……え? 最後?」

今までの明るい口調とは違って、沙耶のトーンが下がる。

『うん、結婚が正式に決まったの。来月には実家に帰るんだ』

沙耶の実家は青森だ。そう簡単に行き来できる距離ではない。仲の良かった友人が遠くへ行ってしまうと思うと、おめでたいとわかっていても寂しさが募る。

「そっか、寂しくなるね……」

『うん、引越しの準備とかあってなかなか時間が取れないんだけど、来週の月曜日って里美は仕事? よければその時に店に行くね』

「わかった、あ、そうだ! その時さ、私が沙耶にコーヒー淹れるよ」

『ほんと? 楽しみにしてる。じゃあ、またね』

電話を切ると、私は深々とため息をついた。
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