私、それでもあなたが好きなんです!~悩みの種は好きな人~
「コーヒー本来の味を淹れるのに適した水質は?」

「……へ?」

いきなり質問されて目を丸くしていると、石堂さんが早く答えろとジロッと私を見た。

「適した水質は軟水です」

「理由は?」

「軟水はミネラルが少ない分、コーヒーの本来の風味に影響しないためです」

すると石堂さんが作業をしていた手を止めて腰に手をあてると、初めて私と目を合わせた。

「カフェラテとカフェオレの違いは?」

「カフェラテはエスプレッソを使って、カフェオレはドリップコーヒーを使います」

え? なに……なぞなぞタイム――?

「苦味を極めた最も深い焙煎のことをなんと言う?」

石堂さんは戸惑う私を見てニヤッと笑い、立て続けにコーヒーに関する質問を投げかけてくる。

「えっと、一番深い焙煎……あ、イタリアンローストですね」

確かそう、エスプレッソにも使うもんね――。

コーヒーの知識ならまぁまぁ……自信あると思うんだけど――。

「なるほどね、お前、バリスタ志望って言ってたっけ?」

「はい。あの、私、不器用ですけど……ただ純粋に美味しいコーヒーを淹れたいんです。私の希望はそれだけなんです」

自分が淹れたコーヒーを美味しいといってもらいたい。私はどうしてもバリスタとして石堂さんに教えてもらいたかった。その思いが石堂さんに伝わるかはわからない。けれど、意気込みだけは本物だとわかってもらいたかった。

すると、石堂さんは短くため息をついて言った。
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