私、それでもあなたが好きなんです!~悩みの種は好きな人~
そうだ! 私、自分が使った器具をそのままにしてたんだった――。

おそらく、石堂さんは抽出の残りを飲んだのだろう。

「すみません! 私、そんなつもりじゃ……」

「別にいい。おかげで新人だった頃を思い出した」

見ると、石堂さんは今までに見たこともないような表情を浮かべ、懐かしそうに目を細めて一点を見つめていた。

「俺が初めて本格的にコーヒーにはまったのは十八の時だったな、何も知らない俺に雅人さんがコーヒーのノウハウを教えてくれた。俺も今のお前みたいにすべてが新鮮で……」

もっと石堂さんの話を聞いていたかったのに、らしくない回想をしたと石堂さんは途中で話をやめてしまった。

「石堂さんはその時、誰かに認めてもらいたいって、そう思ってましたか?」

「え?」

「私、認めてもらいたいんです。石堂さんに……だから、嫌いだって言われてもへこたれないで頑張るって決めたんです」

すると、石堂さんの大きな手がすっと伸びて私の頭にぽんっと置いた。そしてそのまま下へおりて頬を微かに触れてそっと離れていった。
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