私、それでもあなたが好きなんです!~悩みの種は好きな人~
石堂さんの黒々とした瞳に私の影が揺らめいて、慌てて距離を取る。

「ふぅん、意外と積極的だな」

「ち、ちちち違います!!」

ぶんぶんと首を振って動揺する私を見るなり、石堂さんはニヤッと口元を歪めて笑った。

「なに? もしかして、キスしたかった?」

石堂さんが狼狽える私を見て、茶化すようにずいっと私を囲うように押し迫ってきた。

「……へ? え?」

トンと背中に壁が触れ、これ以上後ろには下がれないと悟る。目をぱちくりさせて石堂さんを見上げると、壁に手をつきながらなんとも艶っぽい瞳で私を見下ろしていた。

ちょ、ちょっとなにこのシチュエーションは――!?

色々と思考回路がショート寸前のところで、石堂さんが私に言った。

「……バーカ、顔こわばりすぎ」

バ、バカ!? バカって言った――!?

「も、もう! ふざけないでください!」

私がものすごい勢いでくるっと背中を向けると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。

あぁ、石堂さんが笑ってる――。

その笑顔、また見たい、でも今は――。

石堂さんに壁ドンされた恥ずかしさで今はまともに彼の顔を見ることができない。きっと、真っ赤になった顔を見たらまた笑われるに決まっている。

石堂慧という人は私にとって理解不能で、はたまた不思議と興味を抱かせる人だと、そう感じずにはいられなかった。
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