sugar、sugar、lip
気がついたら、日誌を胸に抱えて、入り口の外にしゃがみ込んでた。



壁に体を預けて、彼の音色だけを頭に入れていく。



やっぱり癒される……。



朝の出来事も、頭から出ていかない未練も……今は忘れてられる。




しばらくこうして、彼との時間に浸かっていたわたしに不意に声がかかった。



「どしたの? 芳川さん?」


目を開けたわたしの前には、男の子が立っていた。


彼は、心配そうにわたしを見ている。



あれ?


この人どっかで見たような……。



「気分悪いの? 大丈夫?」


わたしに片手を差し出しながら、彼はますます不安そうにわたしを見ている。



……あ、そっか。



今のわたしって、端から見れば廊下の隅でうずくまってる人……。



かなり不審……。



「あっ、ううん……大丈夫! ピアノ聴いてただけ……」


慌てて立ち上がり、彼を安心させようとホントの理由を告げる。


すると、

「あぁ。奏大(そうだい)のピアノ聴いてたんだ」


何故か彼は人懐っこい笑顔を浮かべてこう呟いた。



奏大のピアノ?



もしかして、ピアノの彼の名前?
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