sugar、sugar、lip
切れた息を整えながら、わたしは病室の入り口に立っていた。



空いたベッドが並ぶ中で一つだけ、


カーテンの掛けられたベッドがある。



多分……、
ここに奏大が居る。



一歩一歩ゆっくりと歩み寄っていくわたしに、思いがけない声が聞こえた。



「ビックリしたよ……今朝学校に行ったら軽く噂になってて……」


穏やかでやや高めの可愛らしい声。



初めて聞く声なのに、それが誰なのかわかってしまう……。



「奏くん、よっぽど必死だったんだね」


奏大の病気のことを知ってて、奏大をこんな風に呼ぶ女の子……一人しか思い浮かばない。



「……必死。喉のことなんか忘れてた」



少し掠れた奏大の声……。



良かった……。
ちゃんと喋れるんだ。



「もぉ。ちょっと妬けちゃうな。その彼女さん」



少し拗ねたように聞こえた声に、



「……彼女じゃないって」



答える奏大。



「でも、好きでしょ? 奏くん」


弾むような声でされた質問に、しばらく沈黙が続く……。



そして、



「……わからない」



短く答えた。



思わず、わたしは病室から駆け出していた……。
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