sugar、sugar、lip
好きとお砂糖より甘い口付け
「……奏大」



玄関から出てきた奏大にかけた第一声……。


言いたいことは一杯あるのに……、


顔を見たら何にも出てこなくなった……。


「……らしくない顔」


こう呟いて、
いつもみたい無防備に笑って、
優しく頭を撫でた。



「来て」



奏大に手を引かれてやってきたのは、



ピアノの置かれたシンプルな部屋。



「ほら」


譜面台に置かれた楽譜を指差して、鍵盤に指を踊らせ始める。


ピアノが奏で始めたメロディーは、ここへわたしを導いたメロディー。



奏大が携帯に添付したメロディー。



わたしが聴きたいって言って、本屋さんに楽譜を探しに行った曲……。



ちゃんと覚えててくれたんだ……。



ピアノを奏でる奏大の背中に、



そっと身を寄せた。



「……ごめんね……」



背中越しにしか言えない……。



ズルいな……わたし。



奏大は手を止めて、



黙ってわたしの言葉に耳を傾けている。



「奏大の傍に居たいから、負担にならないって快登くんと約束したのに……」



結局……傷つけてしまった……。
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