愛の華
「じゃあ、また9時ごろに迎えに行くから。


昨日は当直だったし、西島先生が来てくれたら、すぐに申し送りをしてすぐにそっちに向かうから。」





先生は、ベッドサイドの椅子に腰を下ろしてそう言葉にした。




「無理しなくていいよ。


急がなくても、私はここで待ってるから。」




私は、病院を抜け出したことはない。




でも、病室が本当に退屈で病室からはよく抜け出していた。




私の生活は、いろんな制限があって嫌になるくらいだった。





電子機器を触ることができない私にとって、スマートフォンというちょうどいい暇つぶしのアイテムは、手にすることさえもできなかった。





私が好きなことといえば、中庭の花を見に行くことくらいだった。




それに、入退院を繰り返しているから、学校に中々友達は作れなかった。




お見舞いに来てくれる友達は、1人もいなかった。





だけど、そのことを寂しいなんて思ったことなんてないし、同情してお見舞いに来るくらいなら、来ないほうがましだ。





「雪乃?


何か、欲しい物はないか?」




「えっ?」




「ここ1年ずっとこの病室で頑張ってくれてただろう?


だから、せめて何か欲しい物はないかなって思って。



俺からの退院祝い。」




退院祝いか…。





いつも、先生からはいろんな物をもらってるし生活に不備が生じたことなんてあんまりないしな…。





これと言って、欲しい物なんてなかった。





「そんなに、難しく考えなくていいよ。



じっくり考えててもいいし、特になかったら俺が雪乃に合いそうなものをプレゼントしたい。」








「ありがとう。」






「それに、高校の入学祝もまだだったしな。」







「それはいいよ。



私は、実力であの高校に受かったわけじゃないんだから…。




出席日数が足りないのに、入れてもらっただけでも感謝だよ…。



理事長先生が、神崎先生と繋がってなかったら私は入れなかったんだから。」








「そんなことはない。




もし、そうだとしても学校にいた時の雪乃の成績や態度も全部含まれてるんだから。




テストのために夜遅くまで勉強していたこと。




学校で、頑張ってきたこと。



その努力が今の形として残ってるんじゃないのかな…。





雪乃が全部俺のためって言ってくれるのは嬉しいけど、そこに雪乃の努力もあるってことを忘れないでほしいな。」





「私の努力…か…。」





「そうだよ。俺は、それを助けただけ。」





「先生?


ちゃんと見ていてくれてありがとう。」





「うん。なんか、雪乃が素直だと調子狂うな。」





先生は参ったというような顔をして、照れくさそうに頭を掻いた。





「8時から申し送りだからすぐに行って帰ってくるな。


じゃあ、何かあったら遠慮しないですぐに連絡するんだよ?


このボタンを押してくれればすぐにでも行くから。」






「はい。」




「じゃあ、またあとで。」





もう1度先生は私の髪の毛を撫でてから病室を後にした。
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