Three~となりの王子~
幸福のしるしだったバニラビーンズのにおいが、吐き気をともなう悪臭に変わってしまったのは、あたしが高校にあがったばかりのころだ。
休日にパパが家を空けることが増えた。夜、帰ってこないことが増えた。
あたしはバカだから、仕事が忙しいんだろうなあ、ぐらいの甘い考えでいたのだけど、どうもそうじゃなかったみたいだ。
実際、パパが家の外でなにをしてるかなんて、あたしは知らない。
訊いてみたくても、肝心のパパは家にいないし、ママにそれを訊ねるのはあまりに酷なことに思えた。
そうして、ママは毎日お菓子を焼きはじめた。
とても一日では食べきれない量のお菓子を、毎日、毎日、欠かさずに。
最初のうちは捨てるのが忍びないからとおとなりさんちにおすそわけに行ったり、学校に持っていって涼子に押しつけたりしていたのだけど、それももうやめた。
いくらママが一流のパティシエだったとはいえ、こうも毎日お菓子を焼いてるなんて、どう考えたって異常だ。
そのことを、隣の家族や涼子に知られるのがいやだった。
あたしがSOSを出せば、みんなが手を差しのべてくれるってことはわかってる。
でもそうしたくなかった。
どうしてだろう。
よくわかんない。
いつものあたしだったら、ちょっとのことで忍や涼子に泣きついて、助けてもらおうとしただろう。
でもこのことだけは、絶対にほかのひとに言っちゃいけない。
そんな気がしてた。
もっと言えば、たぶんあたしは、ママが恥ずかしかったのだ。
それと同時に、ママを守りたいとも思っていた。
甘えん坊のあたしがママを守るだなんて、おかしいかもしれないけれど。
休日にパパが家を空けることが増えた。夜、帰ってこないことが増えた。
あたしはバカだから、仕事が忙しいんだろうなあ、ぐらいの甘い考えでいたのだけど、どうもそうじゃなかったみたいだ。
実際、パパが家の外でなにをしてるかなんて、あたしは知らない。
訊いてみたくても、肝心のパパは家にいないし、ママにそれを訊ねるのはあまりに酷なことに思えた。
そうして、ママは毎日お菓子を焼きはじめた。
とても一日では食べきれない量のお菓子を、毎日、毎日、欠かさずに。
最初のうちは捨てるのが忍びないからとおとなりさんちにおすそわけに行ったり、学校に持っていって涼子に押しつけたりしていたのだけど、それももうやめた。
いくらママが一流のパティシエだったとはいえ、こうも毎日お菓子を焼いてるなんて、どう考えたって異常だ。
そのことを、隣の家族や涼子に知られるのがいやだった。
あたしがSOSを出せば、みんなが手を差しのべてくれるってことはわかってる。
でもそうしたくなかった。
どうしてだろう。
よくわかんない。
いつものあたしだったら、ちょっとのことで忍や涼子に泣きついて、助けてもらおうとしただろう。
でもこのことだけは、絶対にほかのひとに言っちゃいけない。
そんな気がしてた。
もっと言えば、たぶんあたしは、ママが恥ずかしかったのだ。
それと同時に、ママを守りたいとも思っていた。
甘えん坊のあたしがママを守るだなんて、おかしいかもしれないけれど。