Three~となりの王子~
着るものだけじゃなくて、ママの乙女チックはどんどん加速していった。


さっきまで笑ってたと思ったら、突然ほろほろ泣き出しちゃったりする。


「でもぉ」とか「だってぇ」とか「なんだものぉ」とか、甘ったるく語尾を伸ばしたりする。


「いいなあ、あおいは。きれいな髪で。わたし、くせ毛なんだもン」

なんて、何十年も昔の少女小説に登場するような女学生っぽい台詞をつぶやいて、唇をとんがらせたりする。


かと思ったら、
「いっしょに寝ようよう」
とか言って、くまのぬいぐるみを抱いてあたしのちいさなベッドに潜りこんできたりする。


いっしょに外を歩いていると、腕を組んできたり、手をつないできたりする。




あたしは、こわい。

なにがママをこうさせちゃったのか。

得体がしれないだけに、すごくこわい。


「あおいー。あおいちゃーん」

しきりにママがあたしを呼ぶ声がする。

砂糖菓子の凶器だ。


ママが砂糖衣で武装すればするほど、パパの足は家から遠のいていく。

バニラビーンズのにおいの中、こみあげる吐き気をこらえてあたしは今日もお菓子を食べる。
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