Three~となりの王子~
2.忍
マカロニグラタン
「あれ、あおい。どこかいくの?」
「食べ過ぎちゃったからちょっと散歩してくる」
甘ったるくからみつくバニラをふりほどくように、あたしはリビングを出た。
なにか言いたそうな顔でママがこちらを見ていたけど、気づかないふりをした。
玄関を出て、門をくぐりぬけようとしたところで、
「どうして? あたしのことは遊びだったの?」
ヒステリックな女のひとの声が聞こえてきて、あたしは条件反射で塀のうしろに身をひそめてしまった。
そっと覗き込むと、隣の家の前で言い争う男女の姿が見えた。
うわー、修羅場ってやつ?
え?
っていうか、あれ、忍じゃん。
あたしはびっくりして思わず声をあげそうになった。
こんなとこでなにやってんの?
家のまん前で、家族に見られたらどうすんの?
家族じゃなくても、近所のひとの目とかあるのに。
実際、いま、あたし(=近所のひと)にばっちり目撃されてるし。
「うーん、遊びっていうのとはちょっとちがうかなあ」
なのに忍は、こんなことなんでもないってかんじに余裕たっぷりの顔でそんなことを言った。
ずりさがった眼鏡をひょいっとつまみあげながら。