Three~となりの王子~
「たとえばいま君はすごくおなかが減っているとする」
「は?」
「なにか口にしないといまにも倒れてしまいそうだとする」
「ちょっと忍、またはぐらかす気?」
「いいから黙って最後まで聞いて」
静かに、けれど有無を言わさない強さの声で忍が言うと、女のひとはそのまま押し黙ってしまった。
その女のひとは茶色い髪の毛を長く伸ばして、ブランドもののバッグを提げて、すごく派手な格好をしていた。
忍ってああいうタイプが好きだったっけ?
「君は町で評判の洋食屋のマカロニグラタンがどうしても食べたい。それ以外、考えられないと思う。君は洋食屋に飛び込んで、マカロニグラタンを注文する。しかし、キッチンから出てきた店主が申し訳なさそうに告げる。
『すいません、マカロニグラタンは売り切れてしまいました』」
そこでいったん言葉を止めて、忍は顔の前でぴっと指を立てた。
「こういう場合、どうしたらいいと思う? 考えられる選択は三つだ。
ひとつ目は、洋食屋を飛び出して他の店――そうだな、ファミレスとかコンビニとかのマカロニグラタンで済ます。
ふたつ目は、その洋食屋で他のものを食べる。ハンバーグとかオムライスとかビーフカツレツとか。
三つ目は、翌日になるまで待つ。翌日になれば確実にマカロニグラタンが食べられるとはかぎらないけど。ほら、だってマカロニグラタンって冬季限定だったりするしさ。もしかしたらいきなり洋食屋がマカロニグラタンをメニューから外してしまう可能性だってある。
さあ、君ならどうする?」
飄々とわけのわからないことをまくしたてていたかと思ったら、忍はひょいっと目の前の女性に水を向けた。
すっと手を差しのべるようにして、回答を請う。
しばらくぽかんとしていたその女の人は、
「え、二番?」
首を傾げながら、こう答えた。