Three~となりの王子~
「だろ? そうだろ? 普通そうするよな」

たちまち忍はうれしそうに笑って、女のひとの肩に手をかけた。
え、とその女のひとがたじろぐ。

忍はかまわず、彼女の顔を覗きこんで言った。

「つまり、君はハンバーグってこと」

「――――」

「…………」

女のひとが絶句する。と、同時にあたしもあきれて目を丸くしてしまった。


女の敵!

あいつは女の敵だ!

あんな甘い顔して、あんなつめたいことを囁くなんて。

こんなの、本命はほかにいるけど手近な相手でがまんしてるって言ってるのと同じじゃない。


女のひとがひゅっと手をふりあげて忍の頬を平手打ちしようとした――それより一瞬早く、忍の手が彼女の手首をひねりあげた。

「ごめん、殴るならその指輪はずしてくれないかな。痛いんだよね」

真顔でそんなことを言って、彼女の手を払う。

「あんたって最低」

行き場をなくした右手をひらひらさまよわせ、ばつが悪そうに彼女が吐き捨てる。

「そうかな。だって腹が減ってんだからしかたないだろ? おれに飢え死にしろって言うつもり?
悪いけどおれは空腹を耐えてまでマカロニグラタンを待つようなロマンチストじゃない。それに、他の店でマカロニグラタン調達してくるほうがよっぽど最低じゃないか? 似たようなものでごまかそうとしたって、まったくの別物だって自分がいちばんわかっちゃうんだから。
ハンバーグやオムライスやビーフカツレツで間に合わせたほうがよっぽど健康的で建設的だと思うけど?」


まったく悪びれることなく忍はそんなことを言う。


ああ、そういえば忍ってこういうところがあった。

流れるような口調で一方的に持論をまくしたて、相手から反撃をくらってもするりとかわす。

表面的にはやさしいんだけど、実は底意地が悪いのだ。

いつもそれで樹や司、ときには両親まで言いくるめていた。


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