Three~となりの王子~
「あっそ」

あたしはわざとそっけなく言ってやった。

そうしたら、「『あっそ』はないだろ、『あっそ』は」と言って、忍が笑い出した。

その顔は、「いけすかない女たらし」なんかじゃなくて、あたしのよく知ってる忍だった。大好きな「隣のおにいちゃん」の顔。

ついついゆるんできてしまう口元をぴっと締めて、あたしは忍をにらみつけた。

「なに笑ってるのよう。笑わないでよ」

耳から入ってくる自分の声が、自然と甘えたようなかんじになってることに、舌打ちしたい気持ちになった。

どうしても、だめなのだ。

忍に対してだけは。

だって忍ときたら、あたしを甘やかすことにかけては天才的なんだもん。

「こういうこと言うと、たいていの女の子は喜ぶんだけど。なのにおまえ、『あっそ』って……」

「なにそれぇ、伝家の宝刀をあたしにふりまわすのやめてよ」

「伝家の宝刀って……」

その言葉のなにがおもしろかったのか、忍はぶぶーっと吹き出して、おなかを抱えてしゃがみこんでしまった。
< 21 / 51 >

この作品をシェア

pagetop