Three~となりの王子~
「なんか眠れなくってさ」

「は?」

たちまち樹がいやそうな顔をする。

「まさかそれだけか? おまえマジでぶっ殺すぞ」

「樹はなにしてたの?」

「かんけーねえだろ」

「いいじゃん、教えてくれても」

「あー、もー、めんどくせー。おまえ、マジでうぜえぞ」

そう言って、ほんとにめんどくさそうに頭をかきむしる。

ずいぶんな言われようだったけど、こんなふうにまとも(かどうかはちょっと疑問だけど)に話をするのは、ずいぶんひさしぶりだったので、うれしさのほうが勝ってしまった。

「なにニヤニヤしてんだよ。きもちわりぃな」

ぶつぶつ言いながら、樹の顔もほんのすこし笑ってるみたいに見えた。


樹の部屋の隣、忍の部屋に灯りがついていないことに気づいて、

「忍、まだ帰ってきてないの?」

あたしは訊いた。


「あー、わかんねえ。車ないからそうなんじゃねえの」

あたしは時計をふりかえった。午前一時をまわっている。

「いつもこんなに遅いの?」

「ああ、大学入ってからはいっつもこんなもん。いろいろあるんだろ、あいつも」

「それにしたって、こんな時間までなにやってるのよ」

「おれが知るかよ。本人に聞けばいいだろ」

「バイトって言ってたけど、こんな時間までバイトってどんな仕事? 怪しい仕事とかじゃないよね?」

「だから本人に聞けって」

苛立ち気味に樹が吐き捨てる。
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