Three~となりの王子~
それから、ふとなにかを思い出したような顔になって、こちらに片腕を伸ばした。

「届かない、か」


それで、思い出した。

子どものころ、このあいだに糸電話をつなげて夜遅くまで三人と話していたこと。

大きくなったらこんな距離、なんともなくなるよ。

糸電話なんてなくても、俺たちがあおいをこっちに引っぱりあげてやる。

細い糸を伝って聞こえてくる幼なじみたちの声に、あたしは声をひそめてくすくす笑った。


いつかそんな日がやってくることを、あたしたちはなんの疑いもなく信じていた。



樹が手を引っこめようとしたので、あたしはあわてて片腕を伸ばした。

けれど、ふたりの手が触れ合うことはなかった。

届きそうで届かない、微妙な距離にしばらく手をさまよわせていると、遠くから車の音がした。

「忍だ」

つまらなさそうに呟いて、樹が手を引っこめた。そしてそのまま窓を閉めて、部屋の奥に引っ込んでしまった。

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