Three~となりの王子~
「どうしたの?」

突然かたまってしまったあたしを不思議そうに涼子が見る。

「あれ、樹。隣の、次男」

片言みたいなしゃべりかたになって、あたしは樹を指さした。

「え、あのちょっとちゃらそうなかんじのやつ?」

ちゃらそう。

そうか。

他の人の目には樹はちゃらそうに見えるのか。


でもたしかに、言われてみればちゃらいかんじなのかもしれない。

長めに伸ばした髪は明るいアッシュベージュ。制服のネクタイはだらしなくゆるめられていて、結び口が胸のあたりでぶらぶらしてる。身体の重心がうんと下のほうにあって、全体的にだらけてみえる。

隣を歩いている女の子も、ティーン誌のお手本そのままってかんじに制服を着崩してる。

駅前のファーストフード店とかでたむろしてる、いまどきの高校生たちと大差ない。

本来だったら、あたしとはまったく縁のないタイプだ。


そのときだった。

あたしたちの視線に気づいたのか、ふいに、樹がこちらをふりかえった。

目があった。

そのまま、フルーツパーラーの鏡ごしに見つめあう。

たっぷり三秒間、見つめあったあと、樹はばつの悪そうな顔になって、隣を歩いている女の子になにごとか耳打ちした。

ちくり、となにかが胸を刺した。
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