Three~となりの王子~
見ていると、樹になにごとか囁かれた女の子がちらりとこちらをふりかえった。その顔が、一瞬だけこわばったように見えたのは気のせいだろうか。

でもたぶん、あたしもいま、あの子と同じ顔してる。

「なんて顔してんのよ」

たしなめるような、それでいて優しい声で涼子が言う。

「やきもち妬いてるの?」

やきもち?

あたしが、あの女の子に?

そうなんだろうか。

でも、もしこれがやきもちなんだとしても、本来の意味とはちょっとちがう気がする。幼なじみのくだらない独占欲みたいなものだ。

自分で自分に必死にそう言い聞かせるのだけれど、胸のざわつきが止まらない。
だったらどうして、昨日、忍といっしょにいた女の人には嫉妬しなかったんだろう?


もうすこし。
もうすこしで、なにかに手が届きそうな気がする。
なにかに気づいてしまいそうな気がする。


そのなにかは、決定的にあたしたちを、あの幼い日から遠ざける。
あたしはそれがこわい。
見ないふりをしていただけで、ほんとはもうとっくに気づいていたのかもしれない。

「なんであたしがやきもちなんて妬かなくちゃいけないのよ。樹ごときに。そんなことあるわけない。ばっかみたい」

だけど、あたしはそんなことを口走っていた。涼子の目がふっと細められる。

おねがい。あともうすこし、もうすこしだけこのままでいさせて。

なまぬるい陽だまりの中で、幸福にまどろむお姫さまでいさせて。

わがままなあたしの願いは、けれどすぐにかき消された。

「ごときで悪かったな」

顔をあげるとすぐそこに、不機嫌に顔を歪ませた樹が立っていた。

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