Three~となりの王子~
「ば、ばか言わないでよ、そんなわけないでしょ」

「へえ、そう、ふーん、そう」

おもしろがってるみたいな笑いを浮かべて、樹があたしの顔をのぞきこむ。
どうしよう、顔が熱い。

「おれはだれもがふりかえるようなとんでもない美人とかは勘弁だな。あと、あんま派手なのも好きじゃない。十人いたら十人ともがそっぽをむくようなどんくさいのがいい。おれだけのツボに入るかんじっていうかさ、ほかのだれにもわかんなくていいんだ。おれだけがかわいいって思えるような」

あたしから顔をそらして、照れくさそうに樹が言った。

「…………もしかして樹、ゲテモノ好きなの?」

あたしの言葉に、樹がぶっと吹き出した。

「おまえ、そこまで自分を卑下しなくて――」

途中まで言いかけて、樹はなにかに気づいたようにはっと口をつぐんだ。みるみるうちに顔が真っ赤になる。

「バーカ、なに言ってんだよ、ああ、もう、ばっかじゃねえの、ありえねえ。ありえねえって。あーあーあー」

べらべらとわけのわからないことをひとりで勝手にまくしたてて、どんどん先に歩いて行ってしまう。
もう、なんなのよ。

「ちょっと、待ってよ、樹。歩くの速いよ」

「おまえがとろいんだよ」

「ねえ、待ってってば」

「知るか」

あたしがバタバタ走って樹に追いつくと、さらに樹がスピードを上げる。あたしはまた走る。樹も走る。

そんなことをくりかえしていたせいで、家に着くころにはふたりともへとへとになっていた。
< 44 / 51 >

この作品をシェア

pagetop