Three~となりの王子~
「あらあ、ふたりいっしょだったのぉ」

庭で花に水をやっていたママが垣根ごしにひょっこり顔をのぞかせた。
あたしは思わず顔をこわばらせる。

「いいわねえ、仲がよくって。うらやましいなあ」

くねくね身をよじらせながら、甘い声でママが言う。

やめて。もうこれ以上しゃべらないで。

「ちがう。たまたま駅前でいっしょになっただけよ」

樹に別れの挨拶もしないであたしは門をくぐった。

「照れちゃって。いいじゃないのぉ。そうだ、樹くん、うちに寄っていかない? さつまいもが安かったからスイートポテト作ったのよ」

「ママ! やめて!」

思わず大きな声をあげてしまった。
はっとしてふりかえると、驚いたようにこっちを見ている樹と目が合った。

「ほら、だって樹、いろいろ忙しいみたいだから」

ごまかすように笑う。どうしていいかわからないといった顔で、樹はあたしとママの顔を見比べている。

「なによう、そんな大きな声出して。でもそうねえ、樹くんもたいへんよねえ。あんな遠くの学校に通って」

「いや、べつに……」

もごもごと樹が答える。

あんな遠く、といったって、樹の高校はたかだか電車で30分ほどの距離だ。ほんとはあたしも樹と同じ高校に行きたかったのだけれど、電車で通わなくてもいい距離にいくつも高校があるのになんでわざわざ電車通学する必要があるんだ、と両親に言われて、しかたなくいまの女子校に通うことになった。過保護にもほどがある。

「じゃあ、な」

気まずい空気をふりはらうように、樹が去っていく。

あたしはその背中をじっと見つめた。
あたしだってほんとは、同じ制服を着て隣を歩きたかったのに。
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