Three~となりの王子~
卒業祝い
スイートポテトのシナモンのにおいの中で、マフラーをつくりはじめた。
「あらあ、いいわねえ、ママもなにか作ろうかなあ」
うたうような調子でしきりにママが語りかけてくる。
編み棒でひとつひとつ編み目をすくっていくうちに、あることを思い出した。
記憶の底に封じ込めて、思い出さないようにしていた、あの夜のこと。
中学の卒業式の日、隣の家でお祝いパーティーを開いてもらった。
隣の家のおじさんとおばさんはものすごい酒飲みで、あたしたちの卒業祝いだと称してただ飲みたかっただけなんだと思うのだけど。
その証拠に、食卓に並んだごちそうよりも、酒瓶のほうが多かったぐらいだ。
そのころはまだパパも頻繁に家に帰ってきていて、パパとママとあたしは揃って隣の家におじゃましていた。忍の大学入試がまだ終わっていなかったから、忍だけは部屋に閉じこもって顔を出さなかったけれど、樹と司は競うようにフライドチキンにかぶりつき、どさくさにまぎれてビールをがぶ飲みしていた。
「おまえも飲め」
と、いって樹があたしのオレンジジュースの中に手近にあったお酒を注ぎ込んだ。茶色いとろりとした液体。ブランデーかなにかだったんだと思う。
隣のおじさんとおばさんはもうすでにできあがっていて(ものすごい酒豪だけど酔っぱらうのはだれより早い)、うちの両親もお酒はそんなに強くないからすぐに酔っぱらっていて、あたしはそれを一気に飲み干した。
喉がひりついて、胃のあたりからかーっと熱いものがこみあげてきた。
「う」
思わず顔をしかめると、正面に座っていた樹と司がげらげら腹を抱えて笑った。
「あらあ、いいわねえ、ママもなにか作ろうかなあ」
うたうような調子でしきりにママが語りかけてくる。
編み棒でひとつひとつ編み目をすくっていくうちに、あることを思い出した。
記憶の底に封じ込めて、思い出さないようにしていた、あの夜のこと。
中学の卒業式の日、隣の家でお祝いパーティーを開いてもらった。
隣の家のおじさんとおばさんはものすごい酒飲みで、あたしたちの卒業祝いだと称してただ飲みたかっただけなんだと思うのだけど。
その証拠に、食卓に並んだごちそうよりも、酒瓶のほうが多かったぐらいだ。
そのころはまだパパも頻繁に家に帰ってきていて、パパとママとあたしは揃って隣の家におじゃましていた。忍の大学入試がまだ終わっていなかったから、忍だけは部屋に閉じこもって顔を出さなかったけれど、樹と司は競うようにフライドチキンにかぶりつき、どさくさにまぎれてビールをがぶ飲みしていた。
「おまえも飲め」
と、いって樹があたしのオレンジジュースの中に手近にあったお酒を注ぎ込んだ。茶色いとろりとした液体。ブランデーかなにかだったんだと思う。
隣のおじさんとおばさんはもうすでにできあがっていて(ものすごい酒豪だけど酔っぱらうのはだれより早い)、うちの両親もお酒はそんなに強くないからすぐに酔っぱらっていて、あたしはそれを一気に飲み干した。
喉がひりついて、胃のあたりからかーっと熱いものがこみあげてきた。
「う」
思わず顔をしかめると、正面に座っていた樹と司がげらげら腹を抱えて笑った。