ハニートラップにご用心
「千春、こっちか?」
そんなことを考えているとカーナビが目的地付近に来たことを告げ、案内を終了させたところだった。
「は、はい。このまま真っ直ぐ行って、二つ目の角で右に曲がってすぐの家です」
常々思うんだけど、どうしてカーナビって最後まで案内してくれないんだろう。何かと看板があったりとわかりやすい都会なら問題はないかもしれないけと、入り組んだ道のある田舎では最後のナビゲーションこそ必要なのに。
私の案内通りに二つ目の角を右に曲がって、九ヶ月ぶりに実家を目にして私は感嘆の声を上げた。父方の祖母から受け継いだ和風住宅。たった数ヶ月前まで住んでいた家なのに、なんだかすごく懐かしく感じる。
車を家の前の駐車場に停めてもらい、車を降りる。
「いい家だな」
赤外線の遠隔操作で車のロックを掛けながら、土田さんは私の家を見上げた。
何かと現代は洋風なものが身近に溢れ出ている。それが都会となれば尚更和風テイストの家なんて見る機会はないだろう。
田舎だからこそ馴染んでいるこの景色を私は気に入っている。そんなお気に入りの場所を婚約者に褒められて、私は今非常に頬が緩んでいることだろう。
石造りの階段を登って、インターホンを押す。落ち着かない気持ちで反応を待っていると、しばらくしてからパタパタと廊下を駆ける音が聞こえてきた。
なんとなく、土田さんの方をちらりと見ると目が合って手を握られた。