ハニートラップにご用心
「本当に申し訳ございませんでした……」
帰宅早々、着替えを終えて自室から出てきた土田さんに土下座をした。綺麗に背筋から指の先までをピン、と伸ばして額を床に擦りつける。
「ちょ、ちょっと、どうしちゃったのよ」
土田さんはハッとしたように息を吐いたかと思えば、慌てて私の腕を掴んで顔を上げさせた。
「私、てっきり土田さんは心が女性だとばかり……!」
「ああ……」
合点がいったとでも言うように呆れ混じりの声を漏らした土田さん。
私は滝のように涙を流しながら謝罪を繰り返す。思い返せば土田さんに対して多大な無礼を働いたのだ。
「ご迷惑をお掛けしました……私、出ていきます」
「はあ?お金がないからここに来たんでしょう?」
土田さんはため息をついて、私の腕を掴んでいる手とは逆の手で私の頬の涙を乱雑に拭った。
「アタシを普通の男だってわかってて、相応の行動をしてくれたら何も出ていく必要はないわよ。ほら、泣かないの」
「ママ……」
「誰がママよ」
土田さんの母性……いや、懐の深さに感動して思わずそう漏らすと脳天に軽くチョップが入った。衝撃で涙が引っ込む。
クスクスと抑えるような小さな笑い声に顔を上げると、土田さんはまるで小さな子供の遊びを微笑ましく見る親のような優しい表情で私を見ていた。
「……ちなみになんですけど、もし昨日みたいなことしたらどうなるんですか?」
怖いもの見たさでそう聞くと、土田さんは一瞬表情をこわばらせて――綺麗に笑った。
「さあ?やってみたらどうかしら?」
あまりに綺麗な笑顔に圧倒されて頷きそうになって、はっと我に返って慌てて首を横に振った。