ハニートラップにご用心
「落ち込むより先にお仕事よ。反省は後でいくらでもできるんだから」
軽く力を込められて、柔らかな温もりに包まれる。
「千春ちゃんなら5分あればできるわよね?」
迷いも不安も一切ない、心から信じてくれていると感じられる真っ直ぐな声に、私は弾かれるようにすぐ後ろにいる土田さんの方に振り向いた。
「……さ、3分でやります!」
いつの間にか不安はなくなって瞳に溜まっていた涙も乾いていた。いつもの調子を取り戻した私に安心したのか、土田さんはふわりと笑って私の手を離す。
それを見計らったように柊さんが私と土田さんの間に割って入ってきて、私の肩に腕を置いた。
「桜野ー、俺頑張るからこの案件終わったらちゅーして」
「えっと……」
軽くリップ音を立てて投げキッスの動作をしてくるものだから、思わず顔を赤くしてしまう。
それを見た柊さんが新しい玩具を見つけた子供のように顔を綻ばせたのと同時に、土田さんが彼の肩を掴んで私から引き剥がした。
「そんなにキスがしたいならさせてあげるわよ。床にね」
うわ、と柊さんがドン引きした声を出したので弾かれるように土田さんを見る。
「マジギレじゃん」
今までに見たこともないような鬼の形相で土田さんが柊さんの首にロックをかけ始めたのを横目に苦笑いをして、私はパソコンのキーボードを指先で叩いた。