ハニートラップにご用心
土田さんの自宅だと通された高級ホテルのような内装のマンションの一室。
家主がどう感じているかは分からないが、一人で住むには持て余してしまいそうな広い家。実家もそれほど裕福ではなかったので、狭い家に慣れきっていた私にはとても新鮮に感じられる。
いや――私が驚いたのはそんなことではない。
「あの、住まわせてもらえることになって大変恐縮なんですけど……」
「うん?なあに?」
スーツのジャケットを脱ぎながらきょとんとした顔で振り向いた土田さん。
女性のような口調さえなければ惚れ惚れするような仕草に一瞬気後れしたけれど、すぐに煩悩を振り払うように首を横に振ると土田さんに不思議そうな顔をされた。
それから、先程言いかけていた言葉の続きを恐る恐る――私なりに精一杯、失礼にならないように言葉を選んで紡いだ。
「普通だな、って……」
私の言葉を聞いた土田さんは何のことを言っているのか一瞬理解が追い付かなかったらしく、ぱちぱちと瞬きを数度して――吹き出した。
「す、すみません……バカにしてるわけではなくて!」
「ふふ。いいの、いいの。言いたいことは分かるわ」
当たり前といえばそうだけど、土田さんの自宅は普段の少女趣味に反して至って普通の家だった。ごく一般的な白塗りの壁に床。置かれている家具も白と茶色を基調とした落ち着いた雰囲気で統一されている。
そわそわと周囲を一周見渡して、ふと床に視線をやる。土田さんがジャケットを脱ぐ時に懐から落ちたらしい小花柄のハンカチが視界に入った。
「可愛いものは好きよ」
私が気が付いて拾い上げるよりも先に、持ち主の方が先に気が付いて手を伸ばして優雅な動作でそれを拾い上げた。
布の端と端を両手の人差し指と親指でつまんで、私に見せるようにして広げる。