ハニートラップにご用心
TRAP4 迷子の独り言
都内のオフィス街の一角。
高層ビルの窓から覗く空を眺めて、私はため息をつきたい気持ちになった。まだ昼過ぎだというのにもう日が傾き始めた。季節はもうすっかり冬なのだと思い知らされる。
営業の人達は皆営業回りに出払っているので、オフィスの中は営業事務の女性社員達のみだ。
デスクの真ん中に置いた仕事用のパソコンに視線を戻して、社内メールに目を通す。内容は年末に向けた事業部会議の日程変更。
確認したことをきちんと記すためのチェックマークをクリックすれば、その部分だけが色を変える。
絶対に伝え忘れることのないように、普段はデスクの引き出しの中にしまってある飾り気のない正方形の付箋を引っ張り出して、「事業部会議日程変更」とだけメモを取り、デスクの目に付く場所に貼り付けた。
あの人が戻ってきたら、忘れずに伝えなきゃ……。
仕事中に思い出さないようにと努めていた顔を思い出してしまい、私は一瞬息を止めた。
"今の俺じゃ、お前の気持ちに答えられない"
土田さんのあの言葉に込められた意味が未だにわからない。私のことを女として見られない、ビジネス上の関係を壊したくないと遠回しに私を振ったと考えるのが妥当だろうか。でも、土田さんの性格から考えて、それならそうと理由をはっきりと告げるはずだ。
何か言えない理由があるんだと思う。言いたくない、ことが。