ハニートラップにご用心
「つ、土田さん……」
「なあに?」
にこにこ上機嫌に私を見つめてくる土田さんを前にして、席に座る。
ふかふかのクッションがお尻を包み込んで、こちらが何かしなくても、座るのにちょうどいい角度に調整してくれた。
「私、テーブルマナーとか、ちょっと自信ないというか……」
一般教養の一つとして学生時代に少しだけ習ったけど、実践経験はほとんどない。
いつもこういった高級なお店は「うわー、高そう」なんて言いながら、横目で見て通り過ぎていたような一般市民だったから。
「気張らなくていいわよ。この時間は貸し切ってあるから」
「貸し切っ……!?あ、ああ……はい。わかりました……」
驚きの声を上げそうになったところで、給仕の男性がワインボトルを持ってきたのが見えたので慌てて口を閉ざした。
ここまで来たらもう何があっても驚くまい。これは夢のような現実、すなわち限りなく現実に近い夢だ。異国のお姫様になった気持ちでいよう。
「千春ちゃん、ワインは大丈夫?ジュースもあるけど」
「は、はい」
飲んだことはないけど、土田さんがいるなら少しだけ飲んでみても大丈夫だろうと思い頷いたところで――ふと、大事なことを思い出して小声で話す。