ハニートラップにご用心
「えっと、でも、土田さんが飲むなら私は飲まない方がいいですよね?帰り、困りますし……」
ここに来るのに土田さんの運転で、土田さんの車で来た。二人ともお酒を飲んでしまったら帰りの足がない。タクシーで帰るにしても、また車を取りに来なきゃいけないのは面倒だろうし。
色々なことを含めて困る、と告げたところ土田さんは合点が行ったという表情をしたあと、金属同士がぶつかる音を立てて番号の書かれたプレートのストラップがついた鍵を取り出した。
「最初から家に帰るつもりなんてないわ」
目の前に掲げられたホテルの部屋の鍵らしきそれと土田さんの柔らかな笑顔を見比べて、私は言葉を失った。
「姑息なやり方してごめんなさいね」
本当のサプライズって、きっとこういうことを言うんだろう。私が失敗したのとは違う。
それにしても、いつから計画していたんだろう。全然そんな素振りなかったのに……。
土田さんはホテルの鍵をスーツの内側のポケットにしまって、空いた手でワインの注がれたワイングラスの長い持ち手に指先を這わせた。
「ワインは熟成するほど美味しくなるのよ、千春ちゃん」
その言葉で、土田さんが今まで何を考えて何をしていたのかを察してしまった。
真っ赤になった私の顔を楽しそうに眺めて乾杯しましょう、なんて呑気に言ってくるけど正直それどころじゃない。夜まで心臓が持つだろうか。