ハニートラップにご用心
――まさか、と頭の隅の発想にはあったけど現実になるとは思ってなかった。
ここまでやってくれたんだから可能性はないとは言いきれなかったが――当然のように、ホテルの最上階を貸し切りにしたと告げる土田さんの表情は忘れられない。本当に何でもないことのように、私が暇だったし材料が揃っていたからお菓子作ったよ、と言うくらいの軽さだった。
さすが高級ホテルのスイートルームと言うべきか、広大な浴場の一面がガラス張りになっていて、こちらからもイルミネーションが輝く夜景を見ることができるようになっていた。
しかし、今の私は夜景どころではない。
「あの……少し、離れてくれませんか……?」
乳白色のお湯の中で、うしろから私を抱きしめるように密着してくる土田さんを肘でぐいぐい押す。
すると土田さんは私の手を掴んで更に身を寄せてきた。これ以上触れ合うことができないくらい、肌と肌が密接に触れ合う。
「何で」
土田さんが喋ると、触れ合った肌が振動してくすぐったい。しかもいつものオネエ口調じゃなくて男の人のやつだ。