ハニートラップにご用心
「恥ずかしい、です……」
「そろそろ見られるのにも慣れた頃だろ」
ええ、そうですね。今まで散々あなたに触れられましたからね。
口から出かけた言葉を飲み込んで湯船に口元を沈めると、土田さんの腕がお腹のあたりに回ってきてビクリと肩を震わせた。パシャリとお湯が跳ねてから、少しの沈黙が下りた。
「あー、俺まで裸だったことないもんな?」
「ぶっ」
お湯の中で吹き出して水しぶきが上がる。
自分の吹き出したものを頭から被ってしまい、恨めしげに振り向いて諸悪の根源を睨みつける。
睨みつけられた本人は楽しそうに、ふふんと鼻を鳴らした。
「緊張してる?」
「そりゃ、もちろん……」
回された腕に少しだけ力を込められて、その動きにより波紋ができる。浴場の造りによっていつもより少しくぐもって聞こえる低い甘い声が、不安の色を滲ませて響いた。
「嫌なら、言って。やめるから」
土田さんの指先が微かに震えていることに気が付いて、私は何も言わずに彼の頬に自分の頬を寄せた。
私が彼を拒絶するわけない。拒絶する理由だってない。彼に絆され熟成された身体はすっかり熱を帯びて、火照っていた。
きっと、忘れてくださいと言われても今夜のことは絶対に忘れなることはないだろう。
私が生まれて初めて愛した人と、本当の意味で結ばれることができた日なんだから。