悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
トンネルの中は緩やかな下り坂になっているようで、どんどん加速していた。

子供の頃は、父に馬に乗せてもらったことが何度かあったけれど、こんなに速く走らせなかったし、これほど揺れもしなかった。

速度に加え、暗闇に吸い込まれてしまいそうな感覚にも怖くなる。

それで木箱の縁に両手でしがみつき、固く目を閉じていたら、突如、二本の逞しい腕に後ろから抱きしめられ、「キャア!」と控えめな悲鳴をあげた。

それは王太子の腕で、薄い布地を通して私の背中に、筋肉質の胸のぬくもりが伝わってきた。

心臓を跳ねらせて目を開けたら、私の耳に優しい声が響く。


「着くまでこうしていよう。スピードに慣れたら、オリビアもきっと楽しめるはずだよ」


着くまで、どれくらい?

彼の腕の中にいると、トロッコに対する恐怖は半分ほどに減った気がするけれど、波打つ鼓動を制御できなくて困る。

父と祖父以外の男性に抱きしめられたのは初めてで、きっと私の頬はリンゴのように赤く色づいていることだろう。

恥ずかしがっている顔を、見られたくないわ。
ここが、頼りないランプの明かりだけの暗闇でよかった……。

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