悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
それから二十分ほどが経ったろうか。

下り坂が今度は上り坂に変わり、トロッコは速度を緩めて無事に停車した。

やっと王太子と体を離すことができて、私はホッと息をつく。

手を取られてトロッコから降りるとそこは、乗り込んだ王城の地下と変わらぬ石積みの、ポッカリと開けた空間だった。

しかし随分と長い距離を走っていたので、きっと王城のそびえる丘は下りて、家々の建ち並ぶ都も外れの方か、もしかするとその先の農村地帯に入っているのかもしれない。

近侍の持つランプに照らされる王太子が、人のよさそうな笑みを浮かべて「どう?楽しめた?」と感想を求めてきた。


「え、ええ……」


戸惑いながら頷くも、私の本意は違う。

トンネルの三分の一ほどを過ぎた頃には、トロッコのスピードや揺れに慣れて怖くなくなったが、楽しむ余裕まではなかった。

密着する体が気になって、それどころじゃなかったのよ……。


そんな私の心を知らない彼は、「よかった」とニコリと笑い、「次は地上に出るよ」と私の手を繋いで暗闇を奥へと歩きだす。

彼の一歩先を歩くのはグラハムさんで、その手に持つランプが照らし出したのは、鉄の枠組みに木のステップを敷いた螺旋階段だった。

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