悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
山に向けて緩やかに傾斜をつける土の道。

村の中心部からさらに先に数分歩けば、ブドウ畑も途切れて、草地が広がっていた。

その中にポツンと一軒だけ、群れからはぐれたような民家が見える。

家の裏手には囲いの中に馬とヤギが数頭放たれていて、のんびりと草を食んでいた。

こんなに歩いたのは久しぶりのことなので、疲れてきていた私の息は弾んでいる。


「オリビア、あの家まで行けばもう歩かなくてすむから。もう少し頑張って」


王太子の励ましに頷いて、目的地はあの家なのかと思っていた。

しかしその家の前に着くと、そうではないとわかる。

風雨にさらされ傷んだ木のドアをノックした王太子は、「馬を貸してください」と声を張り上げていて、歩かなくてすむという意味は、ここから馬での移動になるということみたい。


すぐにドアが開いて、口が見えないほどに白い髭を生やした老人が出てきた。

皺だらけの鼠色の帽子の鍔を上げて、白濁した瞳に王太子を映すと、ホッホと変わった笑い方をした。


「お前さんたちかね。三カ月ぶりくらいかの。もう来んかと思っとった」

「少し忙しくしていたんですよ。今日は久しぶりに時間が取れたから、山の向こうの親戚の顔を見に行こうと思って」

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