悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
「その頃のベイルはーー」

レオン様は記憶を手繰り寄せているような口調で、その兵士について語る。

もとは肌艶がよく、しなやかな筋肉を持つ美丈夫であったのに、急にやつれてなにかを思い悩んでいるような様子であったそうだ。

彼の変化に気づいた上官が声をかければ、暑さのせいでよく眠れない日々が続いているとベイルは答えた。

そのため、夏が過ぎれば体調も戻るだろうと周囲はさほど心配しなかったらしい。

しかし、暗殺未遂事件が起きてしまった。


「彼は心を病んでいたんだよ」とレオン様は悲しげに言った。


「週に二、三度は顔を合わせていたというのに、俺は城医に診察させることはおろか、仕事を減らすように指示することさえしなかった。もっと親身になって心配していたら、事件を起こさせることはなかったかもしれない。愚かだったと今でも悔いている」


彼の口から漏れたため息には、心からの後悔が滲んでいて、なぜそんな考え方ができるのかと、私は不思議な心持ちでいた。

その頃の彼はまだたったの八歳の少年で、そこまで気が回らなくても無理はない。

それなのに、自分を殺そうとした兵士に対して、今でも自責の念に囚われているなんて、どこまでお人好しなのか。
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