悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
私の手を離した彼は、「君は勘違いしているよ」と言って口の端をつり上げた。

腹黒そうな笑い方は、父や私に似合っていても、真っ白な心を持つ彼には相応しくない。

目を瞬かせた私の前で、彼は長い睫毛に縁取られた瞼を閉じた。

透き通る青い瞳は隠されて、どこか楽しんでいるような声色で話す。


「俺は聖人じゃない。時には強引に、優しくない方法で、欲しいものを手に入れたりもする。こんなふうにね」


目を開けた彼の雰囲気が変わって見えるのは、気のせいだろうか……。

瞳が甘く艶めいて、私は鼓動を跳ねらせる。

けれども、なにを企んでいるのかと、彼の思惑を探るより、他のことに気を取られてしまう。

どこから取り出したのか、彼の左手にはいつの間にかゲーム用のカードがあった。

奇術を始めようとしているのを察して、私は喜びを持ってその手を見つめる。

今日は、どんな不思議を見せてくださるのかしら……。


カードは四枚あり、ハートとダイヤとスペードのエースが三枚と、ジョーカーが一枚だ。

ニッと笑う彼は、今度は右手で、なにもない空中から羽根ペンを取り出した。

ワクワクして見守る私の前で、ハートのエースの余白に【手を繋ぐ】と文字を書き込んでいる。

同様に、ダイヤには【頭を撫でる】、スペードには【手の甲にキス】と書いて、四枚のカードの表面を私に向けた。

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