悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
「あの、もしかしてこれは……」

戸惑う私に彼は、やや強引さを感じる力強い口調で言う。


「始めよう。裏にしたカードの中から君が一枚引くんだ。選んだカードに書かれていることを、俺にされるというゲームだよ」


やっぱりと思い、身構える私だったが、三枚のエースに書き込まれたことは難しいことではない。

手を繋ぐのも、頭を撫でられるのも、すでに彼にされたことがあるし、手の甲へのキスは、男性が女性に対して行う挨拶だ。

それでも引っかかりを感じているのは、ジョーカーにはなにも書き込まれていないからだ。


「ジョーカーを引いたら、どうなるのでしょう?」と緊張しながら尋ねれば、彼はまたニヤリと意地悪な笑い方をしてみせる。


「君にキスをする」

「頬にですか?」

「いや、唇に」


驚いて「できません!」と慌てる私に、「君ができないではなく、俺にされるんだよ」と彼は言って四枚のカードをシャッフルしている。

裏にしたカードを扇状に広げて片手に持つと、「さあ、選ぶんだ」と低い声で私に命じた。


どうして急に強引なことを……。

けれども、その強引さはどことなく芝居がかっているような、無理をしているような気もしなくはない。

もしかして、私が清らかで優しすぎると非難したことが気に障ったのかしら?

彼の思惑を探りたかったけれど、そのような時間も、深く考える暇もなかった。

「選ばないとペナルティを与えるよ。それも唇へのキスだ」と言われてしまったからだ。

< 131 / 307 >

この作品をシェア

pagetop