悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
顔が熱くなるのを感じながら、「ずるいですわ!」と抗議したが、「だから言ったろ?」と彼は笑う。


「俺は優しくない。オリビアは勘違いしていたんだよ」


明るい笑い声も、弧を描く青い瞳も、気さくで人のよい彼らしさを感じるものに戻っていた。

そこに腹黒さは微塵も感じられず、思い遣りのある言葉をもらう。


「空が真っ赤に燃えている。きっとドアの外で、グラハムたちが待っているよ。もう行かなくては」

空を仰いだ彼の瞳も、茜色に染められている。
いつの間にか夕暮れになり、帰る時間となったようだ。

唇にキスを受ける話はどうするのかと目を瞬かせれば、「また今度にしよう」と言われた。


「その時にはもう少し、君の心が俺に向いているといいな……」


つまり、私の心がレオン様に向くまでは、キスしないということみたい。

ずるい奇術を披露しながらも、無理やり私の唇を奪うことは、最初から考えていなかったということだ。

なによ、やっぱり優しいじゃないの……。


迎えに来ていたグラハムさんは用意がよく、こんなこともあろうかと着替えを持ってきてくれていた。

帰り道、濡れた服を着ずにすんだレオン様の両腕の間で、私は白馬の背に揺られている。

ゆっくりとした速度なので、横座りをしていてもバランスを保つことができ、彼にしがみつくのではなく、両手で鞍の前の方を掴んでいた。

< 133 / 307 >

この作品をシェア

pagetop