悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
けれども何歩も歩かぬうちに、「お待ちなさい」と王妃に呼び止められる。

足を止めて振り向き、「はい。なんでしょう?」と無表情に問いかければ、鏡台の椅子から立ち上がった王妃は「美術サロンのことよ」と話しだした。


「招待を断ったそうね。フリント伯爵夫人は落胆していたわ」


それは先月、私のもとに届いた招待状の話だ。

フリント伯爵家の当主は絵画や彫刻などの収集家として有名で、昨年、王都で私営の美術館を開館させた。

しかし入館料が高いためか、庶民は足を運ばず、収益は微々たるものだろうと皆が噂していた。

その美術館の宣伝も兼ねてだと思われる、フリント伯爵夫人の美術サロンパーティに招かれたのだ。

今回は女性のみということで、王都に町屋敷を持つ上級貴族の夫人や娘たちに招待状が送られたらしい。


「公爵家からどなたも参加しないのは、フリント伯爵夫人の恥になるわ。おかわいそうに。あなたは出席しておあげなさい」

私にゆっくりと歩み寄りながら、そう言った王妃だが、同情的な響きを感じない。面倒くさそうな口調であった。


サロンパーティに地位の高い人をより多く呼ぶことができたなら、それは即ち主催者の評価を上げることに繋がる。逆も然りだ。
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