悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
レオン様の腕にかけていた手を無意識に外したのは、自分を変えられまいとする抵抗からなのか。

彼と触れ合えば、その清らかさが染み込んでくるようで、私の中の淀んだ黒さとせめぎ合い、苦しくなる。

迷い葛藤する心のつらさから、逃れたかったからかもしれない。


するとレオン様に、チラリと横目で見られた。

右手を上げて婦人たちの挨拶を遮った彼は、左腕で私の肩を抱く。

その親しげな仕草に誰より先に驚いたのは私で、「キャッ」と声を漏らして慌てて口元を覆い、鼓動を高鳴らせた。

静けさが戻った展示場に、レオン様の艶やかな声が響く。


「皆さん、申し訳ないが所用があるため今日はこれで引き揚げます。年の暮れには恒例の王城晩餐会を開きます。その時にゆっくりと話しましょう」


「失礼」と言ってニッコリと微笑む彼。

どんな美術品よりも麗しいその笑顔に、婦人たちは一様に見惚れていた。


私は肩を抱かれたまま、皆に背を向けさせられ、彼に寄り添うようにしてドアへと歩きだす。

けれども何歩も進まぬうちに、突然後ろから拍手の音が聞こえ、足を止めた。

彼と私が揃って顔だけ振り向けば、手を叩いているのはフリント伯爵夫人で、少々太めの体を揺するようにして興奮気味に言った。

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