悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
「なんてお似合いなのかしら。王太子殿下は、オリビアさんを妃にお決めになりましたのね。さあ、皆様も祝福いたしましょう!」


貴族関係に大きく影響する重大事項を、正式な発表がないうちから、そのように決めつけ口にする夫人は、呆れるほどに純粋で配慮のない人だ。

他の参加者の間から、戸惑いがちな拍手がパラパラと湧く中で、険しい顔をしたロザンヌ嬢が一歩進み出て、意を決したように口を開く。


「王太子殿下、お待ちくださいませ。フリント伯爵夫人が仰ったことは、本当ですの? どうかお聞かせくださいませ」


ロザンヌ嬢の薄茶色の瞳は潤んでいた。

彼女が王太子妃の座を狙っているのは、アクベス家の価値を高めるためであるが、それ以上にレオン様に恋い焦がれているからなのかもしれない。

失恋に怯えながらも、聞かずにはいられない様子の彼女を、レオン様はじっと見据えている。

そして一拍の間を置いてから、静かな声色で答えた。


「慎重に考えている最中です。発表はもう少し先になるかな」


その返答に、ロザンヌ嬢はホッとしたように頬を緩め、私はがっかりしていた。

彼の結婚は国の一大事で、花嫁の選定に時間をかけるのは当然のこと。既に私に心を決めているとは思っていない。

それに私自身、恋心を自覚したばかりで、王太子妃になる覚悟を決めるのはまだこれからであるというのに、なぜ肩を落とさねばならないのかしら……。
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