悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
それを見て彼が慌てる。


「ごめん、怖かったよね?」


怖くなかったとは言えないが、それは彼に抱かれることへの恐怖ではない。

母親である王妃と衝突してまで、私を妻にしようとしてくれる、彼の悲しい覚悟を喜んでしまう、この醜い性根が恐ろしい。

王族間に対立を生み出すなどと、罪深いことをしている自覚があっても、彼への愛を止められない私の心が怖いのだ。


それを伝えれば、彼の頬がうっすらと赤みを帯び、負傷した右腕を使ってまで彼は私を抱きしめた。


「ああ、オリビア。君はなんていじらしいんだ……。恐れることはない。俺への愛に溺れていればいい。心配いらないよ。今は俺の発言力の方が母より強い。近日中に婚約を発表しよう」


嬉しい言葉を耳に吹き込まれた後は、「その前に」と急に彼が声を低くした。


「汚い手を使って、君を排除しようと企んだ者たちに、相応の処罰を下さねばならない」


ハッとして、彼の肩に預けていた頭をあげた。

気を失ってからの出来事は、まだ誰にも聞かされていない。なぜあんな目に遭ったのかということを、整理して考える余裕もなかった。

ただ、偶然の事故ではなく、誰かの企みであろうということは、暴れ馬に必死に掴まっている間でも薄々気づいていた。

その誰かとは、おそらくアクベス家の人たちであろうということも……。
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